さいごのbeso
キスはもう駄目よ。あんた、よそへ行っちゃうんだもの。
町田市で作曲家やってるTomです。オイラが録音アシスタントをつとめた、劇団東演公演No.161『商船ティナシティ』(2月27日まで)。
あるフランスの港町の酒場。そこの女給テレーズは、カナダへと旅立つバスチアンのキス攻めにこう言い放ち、押しやる。
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──そういえば、2006年7月。青年海外協力隊隊員として赴任したパラグアイ共和国をはなれるさいごの夜が、サタデーナイトだった。隊員仲間との送別会ののち、パラグアイの友人たちとすごす、さいごのゲイディスコへと、ひとり繰り出す。
そのときしりあったお兄ちゃんが(=友人の友人)、俺につきそってくれる。desconocido(=ストレンジャー)からのさそいにきをつけろよとの忠告を、友人から受けてたから。
「安心しろ」といふ彼は、ふだんは警官!それで、多少不安なきもちもおさまり、顔をながめると、ワオ、好ましいじゃない。
好ましいけど、なんとなくぎこちない距離で踊っていると(なにせ初対面だ)、「キスしてくれ」と、ふいに。
イキナリ恋人のつもりじゃないし、ま、あいさつがわりにとほおにキス(ヒロシかるた:あ参照)。それじゃ足りない気がして、額にキスしやうとすると──あとは、ご想像のとおり(Pasó lo que tenía que pasar.)。
さらにすわってはなす。あしたから日本にもどるし、記念に彼のIDをしゃしんにおさめる。エクトル氏。
そののちタクシーで帰途につく。まずは彼の泊まるホテルへ。
去り際に、さいごのbeso。降りる背中をみおくってからは、ふりかえらずに宿泊所へと、まえだけみつめて。
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カナダとフランスにおとらず、パラグアイと日本もとおい;散文じみたわれわれの人生、なんどでも、キスを交わしたらよいのだ。